やる気に関する驚きの科学

1つのグループには、この種の問題を解くのに一般にどれくらい時間がかかるのか、平均時間を知りたいのだと言います。

もう1つのグループには報酬を提示します。「上位25パーセントの人には 5ドルお渡しします。1番になった人は 20ドルです」。これは何年も前の話なので、物価上昇を考慮に入れれば、数分の作業でもらえる金額としては悪くありません。十分なモチベーションになります。

このグループはどれくらい早く問題を解けたのでしょう? 答えは、平均で3分半余計に時間がかかりました。3分半長くかかったのです。そんなのおかしいですよね? 私はアメリカ人です。自由市場を信じています。そんな風になるわけがありません。(笑) 人々により良く働いてもらおうと思ったら報酬を出せばいい。ボーナスにコミッション、あるいは何であれインセンティブを与えるのです。ビジネスの世界ではそうやっています。しかしここでは結果が違いました。思考が鋭くなり、クリエイティビティが加速されるようにとインセンティブを用意したのに、結果は反対になりました。思考は鈍く、クリエイティビティは阻害されたのです。

この実験が興味深いのは、それが例外ではないということです。この結果は何度も何度も、40年に渡って再現されてきたのです。この成功報酬的な動機付け―If Then式に「これをしたら これが貰える」というやり方は、状況によっては機能します。しかし多くの作業ではうまくいかず、時には害にすらなります。これは社会科学における最も確固とした発見の1つです。そして最も無視されている発見でもあります。

私はこの数年というもの、動機付けの科学に注目してきました。特に外的動機付けと内的動機付けのダイナミクスについてです。大きな違いがあります。これを見ると、科学が解明したこととビジネスで行われていることに食い違いがあるのがわかります。ビジネス運営のシステム、つまりビジネスの背後にある前提や手順においては、どう人を動機付け、どう人を割り当てるかという問題は、もっぱら外的動機付け、アメとムチにたよっています。20世紀的な作業の多くでは、これは実際うまくいきます。しかし21世紀的な作業には、機械的なご褒美と罰というアプローチは機能せず、うまくいかないか、害になるのです。

いいニュースは、科学者たちが新しいアプローチを示してくれているということです。内的な動機付けに基づくアプローチです。重要だからやる、好きだからやる、面白いからやる、何か重要なことの一部を担っているからやる。ビジネスのための新しい運営システムは3つの要素を軸にして回ります。自主性、成長、目的。自主性は、自分の人生の方向は自分で決めたいという欲求です。成長は、何か大切なことについて上達したいということです。目的は、私たち自身よりも大きな何かのためにやりたいという切望です。これらが私たちのビジネスの全く新しい運営システムの要素なのです。

科学が解明したこととビジネスで行われていることの間には食い違いがあります。科学が解明したのは、(1) 20世紀的な報酬、ビジネスで当然のものだとみんなが思っている動機付けは、機能はするが驚くほど狭い範囲の状況にしか合いません。 (2) If Then式の報酬は、時にクリエイティビティを損なってしまいます。 (3) 高いパフォーマンスの秘訣は報酬と罰ではなく、見えない内的な意欲にあります。自分自身のためにやるという意欲、それが重要なことだからやるという意欲。